うさぎメモ@多言語に夢中

アクセスカウンタ

zoom RSS 「『モザイク一家』の国境なき人生」 長坂道子

<<   作成日時 : 2017/06/17 11:31   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 14 / トラックバック 1 / コメント 0

 「『モザイク一家』の国境なき人生」という本を読みました。大変興味深い本でした。(本当は「興味深い」なんて翻訳調の言葉は使いたくないんだけど、他に何と表現してよいのか分からない。日本語はこういう語彙が圧倒的に不足してて不便。英語ならいくらでもあるのに)

 とにかく非常にインパクトが大きい本でしたので、ここに覚え書きを記しておきます。



 副題に
パパはイラク系ユダヤ人、ママはモルモン教アメリカ人、妻は日本人、そして子どもは・・・・・
とある通り、イラク系ユダヤ人とモルモン教アメリカ人の間に生まれたスイス生まれの男性と結婚した日本人妻が書いた本です。

 この本を手にとったとき、「そもそもイラク系ユダヤ人とはなんぞや?」と思いました。

 そこに興味を惹かれて読み出したものの、内容を読んでますます混乱。

 ??? アラブで生まれ育ち、アラビア語が母語のユダヤ人・・・???

 アラビア語が母語ならアラブ人じゃあないの? キリスト教徒のアラブ人だっているんだし。ユダヤ教徒のアラブ人がいてもおかしくはない。なぜイラク系ユダヤ人と呼び、ユダヤ系アラブ人ではないのか。

 この本によれば、このような存在は決して例外的ではないようです。
 当時(20世紀前半)のイラクでは、人口の多数を占めるイスラム教徒のほかにも、イラクには彼のようなユダヤ系、そしてキリスト教徒も平和に共存していたという。
 とりわけ首都バグダッドは、そこで商いを営むユダヤ人人口が飛びぬけて多く、20世紀初頭には4万人とも5万人とも推定され、それはバグダッドの人口全体の、およそ3分の1にもおよんだという。(p.30)


 更に。こうした父を持ち、モルモン教アメリカ人を母を持つ息子は一体「何人(なにじん)」ということになるのか。更に日本人の妻との間に生まれた子どもたちは・・・、と考えると、ますますわけがわからなくなる。

 著者がいみじくも述べているとおり、わたしはやはり、
あたかも国境とは不可侵にして自明の(本当にそこに黒マジックで太い線が描かれているかのような)印象(p168)
を抱いているんでしょうねえ。「この人は何人」とカテゴライズしないとなんとなく落ち着かない。思わず自戒。

 正直なところ、この本を読み終えた今も、わたしは混乱を抱えたまま。帰属意識、あるいはアイデンティティとは一体なんぞや、という問いを抱えたまま、頭がクラクラしています。



 この本には、著者のご主人の親族に関する事情が事細かに綴られており、デリケートな問題にも触れています。それをこうして著作として公の場に晒してしまい、家庭騒動になったりしないのかなあ?と、人事ながら心配になったり。それともご家族には内緒なのかなあ? 日本語読めないから大丈夫なのかなあ??とか。

 それだけに、「こんな貴重なものを読まして頂いて、ありがとうございます」という感じでした。



 この本のカルチャーショックはけっこう強烈で、そう簡単に感想を書けるようなものではないので、印象に残った部分の引用を中心に書き留めます。

 先祖代々イラクに住んでいた著者の義父は、1950年に制定された「ユダヤ人からのイラク国籍剥奪法」により、無国籍となってスイスに移住する。
  しばらくの間、国籍というものを持たない身分だった彼は、スイスに住みながらスイス人ではなく、またイラク人でもなかった。(中略) 税金を納めていても、その国はいざとなったら助けてはくれない。そういう不安的な状況が、彼の場合はおよそ10年以上も続いたのだ。(p228-9)

 結局、義父はその後、イスラエル国籍を取得した。イスラエルが、その国籍取得の要件として定めている「帰還権」というものを、彼が持っていたからである。(p230)

 しかしイスラエルの国籍を持つということは、アラブ諸国への渡航を困難にするという側面もある。
(中略)
 無国籍者がようやく手にしたパスポートは、彼に「帰還権」を保証すると同時に、彼が生涯愛着を抱き続けたアラブの国々への扉を閉ざす頑丈な錠前のようなものでもあったのだ。(p232)

 そうか、ユダヤ人なんだからイスラエルを故郷とすればいいじゃないか、という乱暴な理屈は成り立たないわけですね。やはり故郷はイラクのバグダッドなんだ。

 でもだったら故郷を追われたパレスチナ人の気持ちも理解できそうなものだけれども、
「誰にでも帰還する権利はある」ということを義父は言う。だったら、住み慣れた土地から出て行くことを余儀なくされたパレスチナ人たちだって、帰還する権利があるだろうに、という理屈は、だが彼には通らないのだ。(p233)

 帰る場所がとりあえず確保されている人といない人。その両者の間には、理屈では超えられない高い壁がそびえ立っている。
(中略)
 帰る場所を持つ自分が、偉そうに理屈や理想をぶつことが、だから私には少し後ろめたいのだ。(p234)



 宗教というものは、信仰のみで成り立っているわけではないのかな、と気づき、「ユダヤ人」の定義がふと分かりかけたような気がした一節:
 宗教とは知性(のみ)で格闘できる相手ではない。それは風習や儀式、日常生活ににじみ出るさまざまな価値観の断片、祝日の食卓、家族や友人とのつながり、といった多くの雑多なことがらの集積で、それなりの形や存在感をともなって人々の心に届き、一体感や帰属意識の一角を形成する。
 そういうことを、20年前の私はよくわかっておらず、りくつが先に立って、結局は「無宗教という宗教」を子どもに押し付けることになったのではなかったか。(p141)



 多種多様な出自の子どもたちが集うワールド・ヴィレッジも、人種や民族的ヒエラルヒーから完全に自由ではないらしい。
ヨーロッパ人の夫とアジア人の妻という組み合わせ一つとっても、「アジアのどこの国か」によって、その夫妻のポジション、そして子どもが親に向ける視線は変わってくる。
 たまたま日本という国は、特に欧米の若い世代の間では、概してクールなイメージを持たれており、それは欧米暮らしの日本人ハーフの子どもたちにとっての「生きやすさ」に貢献している。(p162)

 母親の私がアジアの中でも日本人だったことは、彼らにとって間違いなく、一つ、重荷が少ないということである。またイラク人だったのが、父ではなく、祖父だったことも、同様だ。日本語ができることは「すごい」と驚嘆されることだし、父親が(少なくとも見かけは)「普通の白人の顔」というのは、どこかほっとすることである。
 非常に馬鹿馬鹿しいことだけれど、これが世界市民的人生の、もう一つの苦々しい現実でもあるのである。(p164)


 食に限らず、一般に知らないもの、不慣れなものに対し、これを怖がったり拒絶したりする感情というのは、人間におそらく自然に備わったものだと思うが、やっかいなことに、こうした恐怖の感情こそが、差別意識の根源にひそむものであることを、今一度、思い出しておきたい。(p198)



 ・・・あり? さっきまで頭に渦巻いていた混乱が収まってきたような・・・。

 そうか、イラク系ユダヤ人をユダヤ系アラブ人と呼ぶことはできないのか。母語がどうであれ、どこで生まれ育とうが、ユダヤ文化の土壌で育ち、ユダヤ人の自覚を持つものがユダヤ人。アラブ文化で育ち、自分はアラブ人だと思う人がアラブ人なのかもしれない。

 ・・・というか今は、どうしてさっきまでイラク系ユダヤ人がイメージできなかったのか、もはや自分でも分からない(笑)。なんだか急に腑に落ちました。印象に残った部分を転記することで、頭の中が整理されたのかなー??



 最後に、この本のテーマからは逸れますが、言語習得に関して。
英語を母語とする人の仲には、世界のどこへ行ってもそこの言語をどうしても学べない人というのが、実は驚くほどたくさんいるものである(外国語下手な日本人とて、彼らの語学下手にはかなわない)。(p107)

 ヨーロッパには3カ国語、4カ国語を話せる人は決して珍しくないが、自分の子どもがヨーロッパ言語習得に費やした時間と労力、と、日本語習得に費やしたそれ、そしてその成果とを比較するとき、ヨーロッパ言語習得が(そのうちの一つを既に知っていた場合)いかに「楽なもの」であるかは明らかである。(p148)

(前略)大切なのは、「ネイティブのようにペラペラと話せるようになること」では決してない。
 英語の例一つとってみても、それは近年、非英語圏出身者同士の共通言語としての役割がますます肥大している。もはや今どきの英語とは、「たった1つの純粋で正しい英語」なのではなく、異なる英語どうしの「最大公約数的な国際語」としてこそ、その異議や重要性が爆発的に増えつつある。そういう言語なのである。(p155)













 

テーマ

注目テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 14
なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い 面白い 面白い

トラックバック(1件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
台湾がない・・・!
 DMMワールドトラベル(過去記事参照)、極めて順調。難なく70カ国を超えました。 ...続きを見る
うさぎメモ@多言語に夢中
2017/07/18 10:27

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文
Flag Counter
「『モザイク一家』の国境なき人生」 長坂道子 うさぎメモ@多言語に夢中/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる