「できる」のハードル

 「うさぎさんて、『できる』のハードルが高くない?」と、先日友達に言われました。「うさぎさんの『できる』と『できない』の間には大きな段差がある気がする。わたしは『できる』と『できない』はなだらかなスロープで結ばれていると思うのだけれど」、と。

 あれ、外から見ると、わたしもそう見えるのか、と意外でした。実は、同じことを、わたしも世間に対して常々思っていたからです。


 わたしは外国語の習得には無限の段階があると思っています。友達の言う「スロープ」に近いものだと思う。

 でも世間の評価は往々にして「できる」か「できない」かの二択しかない。「ペラペラ」か、「そうでないか」の二つ。

 ちょっとやそっと進歩していても、「ペラペラ」になるまで、その価値はゼロ同然。「できる」「できない」の二択に放り込まれると、日々の僅かな進歩は見えなくなってしまう。

 外国語というのは極めなくてはならない、という感覚がどこかにあって、人は新しい外国語を始めたその日から「ペラペラ」を目指す。検定試験も、一級以外は無価値だと思っている人は多い。

 でもわたしは、履歴書に書いてもアドバンテージになりそうにない下位級にも価値を認めていて、だから一番下の級だって、受かるとすごく嬉しい。一つの言語と何十時間も向き合った結果、得られるものだからです。価値がなかろうはずがない。

 だからその体験記をウェブにも公開するんです。検定の下位級に悪戦苦闘するのは「ペラペラ」には程遠い証拠。でもわたしにとっては立派な勲章です。



 検定試験では測れない、もっと細かい進歩もあります。一日の進歩はそう簡単に目に見えない。一時間の進歩はもっと見えない。10分の進歩はもっともっと見えない。でも10分だって、1分だって、進歩はゼロじゃない。

 それが分かっているからこそ、外国語を続けていかれるのであって、逆に言えば、外国語を続けていること自体、細かいステップの存在を信じている何よりの証拠だと思う。



 ・・・ただ、そうは言っても、これは自分の中だけの話。外に対してはそう簡単にはいかない。

 ゲール語という弟ができて以来、最近急にトルコ語がお兄ちゃんっぽく見えてきましたが、でも「トルコ語ができますか」と人に聞かれて、「はい、できます」とは、とても言えない。

 今一番できる英語ですら、「英語ができますか」と聞かれて「はい、できます」と言えるかって・・・たぶん言えない。自分としては、そこそこ便利に使えてはいるけれど、見る人が見たら決して「ペラペラ」ではないと思うからです。



 つまり、「ペラペラ」じゃなければ「できる」と言ってはいけないと、わたし自身も思っている。「できることがある」くらいではダメで、「できないことがない」くらいでないと世間的には「できる」の範疇に入らないと、わたしも思っているのだと思います。

 そういう意味では、「うさぎさんの『できる』と『できない』の間には大きな段差がある」という友達の指摘はまったく正しい。

 「できる」のハードル上げに、わたし自身、加担している。「できない、できない」言うことで、「できる」とは言いにくい雰囲気をますます強め、人の前に立ちはだかる壁になっている。

 自分から見てヘンな世間。でも所詮、自分もその一部。その矛盾にはすでに気づいていて、だから最近は、なるべくブログでは相対的な意味での「できない」は書かないようにしているのだけれど、仲間内では先日も、「できない、できない」の連発。これを「謙譲の美徳」と呼べば聞こえはいいが、一皮剥けば、それは自分のみならず人の自信まで奪う牽制球にすぎない。



 ・・・と、分かっているんです。分かってはいる。

 でも自分の内なる感覚と、外とのインターフェイスを、どう噛みあわせたらいいのかが分からない。



 正直に言うと「できない」と言うのは世間に対する手堅い防御であり、そう言いさえすれば、人は遠慮し、それ以上は踏み込んでこない。自分の中で大事にしている達成感や価値観は、人の目に晒されてなお保てるほど強いものではないから、そうやってかわし、自分が揺らぐリスクを避けているのだと思う。

 わたしにとって外国語は、日本人の目の届かないところでのみ使う「秘密の愉しみ」。決して見世物でもなければ、世を渡る櫂でもない。わざわざ人に見せて値踏みされるのもごめんだし、ブログで見せたいのも「思考や逡巡、努力や工夫の軌跡」であって、到達点ではない。

 でも人が一番知りたいのは、到達点。「この人はペラペラかどうか」、ただそれだけ。それも分かっている。だからこそ人の目に晒されそうになると、「できない」と言って先手で逃げを打つんだと思います。


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