「ニューエクスプレス ロシア語」 黒田龍之助
先日(過去記事参照)「初級ロシア語20課」との比較で行きがかり上読んだ「ニューエクスプレス ロシア語」ですが、面白くてハマってしまいました。
著者は黒田龍之助。言語学者としての著書はだいたい読んでいると思いますが、ロシア語のテキストを読んだのは、これが初めてです。
最初はそんなに気合いを入れて読むつもりはなく、一度スキットだけサラッと読んでおしまいにするつもりでした。
でも読み終えたあと、うっかり耳寄りな情報を拾ってしまった。なんでも練習問題にサイドストーリーがあるらしい。
それで図書館に返そうと思っていた本を、思わずまた手にとってしまったというわけです。いつもは練習問題なんて軽く無視するのがわたしの流儀なんだけどね。
ニューエクスプレスシリーズは言語によらず、スキットの主人公、登場人物が一貫しており、全編を通して一つの物語になっています。その上ロシア語はサイドストーリーがあると聞いては、こりゃ読まんわけにはいかないでしょう。
練習問題のページを繰ってみると、ありました、ありました。たしかにダイアログが。
ただし、各課のスキットの登場人物とは別。最初は全く関係がないように思えたのですが、あれ、あれれ??と思っているうちに話が繋がり、なんかちょっとハラハラもしつつ、最後は収まるべきところに収まった感じでした。
なんかものすごく、ロシア語が読めてよかったーー!!という気分になった。
スキットを読んだときは分からないところがけっこうあって、和訳や単語をちらちら見ながら理解していました。だけど練習問題のダイアログは和訳が手近にない(巻末に纏まっている)ので、ロシア語だけで理解するしかないわけです。それでも特に支障なく、ハイ次、ハイ次、と、興味の赴くまま、テンポよく読んでいかれたのが嬉しかったです。
なんていうの? 「自然に読書してる」感?
なんだ、ロシア語読めるんじゃん、みたいな。
ついでにダイアログ以外の練習問題も適当にこなしつつ読みましたが、それでも全部で1時間半もかかったかなあ? すでに習った課のおさらいなので、思いのほかラクでした。
サイドストーリーのほかにも、この本には学習者をできるだけ挫折させない、飽きさせない工夫が凝らされており、その後もとっくり返し、ひっくり返し、何度も読み返したり、CDを聞いたりしています。
挫折させない工夫、たとえばその一つは、第一課が短すぎないこと。
通常の入門書は、第一課、第二課あたりが平易すぎます。ほんの数行読んで、もうおしまい。
そのクセ、第五課あたりから突然難しくなりはじめ、第十課を過ぎると、もう学習者への気遣いはどこへやら。複文やら重文やらがバンバン出てきて一文あたりが長くなり、スキット全体も文字量がわっと増える。
いくら入門書でも、「ここまでは教えたい」という目安がありますから、最初が簡単すぎると、あとにしわ寄せが来る。まるでどっかの国の赤字国債みたい。いいかげん、ツケをあとに回すのやめようよ。
書店で第一課、第二課あたりを立ち読みし、「これなら自分にも読めそう」と思って買っていく学習者を当て込んでいるのかもしれませんが、はっきりいってズルいと思う。
学習者は最初から最後まで、できるだけ同じペースで学習したいんです。毎日1課やると決めたら、一時間なら一時間、毎日同じペースで学習したい。
第一課は30分で終わったのに、最後のほうは1課につき二時間かかる、なんてのはゴメン。
この「ニューエクスプレス ロシア語」は第一課から割とガッツリ読ませてくれます。
たとえば第一課の語数は36ワード、第二課は37ワードです。これは入門書の第一課の語数としてはかなり多い。
でもさー、それくらい読まなくて、どうして読めるようになるの? ある程度の量を読まなかったら読めるようにはならないよ。
ではこの本の最後の第二十課のワード数はどれくらいでしょうか。
正解は64ワード。36ワードの第一課に比べ、確かに増えてはいますが、倍にはなっていません。
ちなみに前シリーズの「CDエクスプレス ロシア語」の語数はというと、第一課が18ワード、第二課は21ワード。
そして最後の第二十課は93ワード。18ワードから93ワードですから、なんと5倍以上に増えています。
断っておきますが、「CDエクスプレス ロシア語」も相当よくできた入門書。決して悪い見本ではありません。でも難化カーブの緩さに関しては、後進の「ニューエクスプレス ロシア語」に道を譲るようです。
語数が多いと難しいかというと、必ずしもそうとは限りません。語数が多いほうがむしろ分かりやすい部分もあります。
たとえば第一課に
次に
たくさん文例を見せてもらったほうが、そういうことが自分で発見できる。だから語数は多いほうが、ある意味むしろラク。まだ内容が単純なうちに、こういう発見をたくさんさせてほしいです。
あと「ニューエクスプレス ロシア語」はとにかく語彙の使いまわしが多いところが良いと思う。
たとえば第五課には、читать(読む)という動詞が4回、журнал(雑誌)という名詞が4回出てきます。同課には他にも同じような活用をする動詞が2つ使われていて、よく見ると、
同様に、主語が「わたし」の場合も
繰り返しが多いことで、文法説明を読まなくても、ある程度自分で法則性を発見できてしまうのがとても良いです。
どうやらこの課で出てきた動詞活用が全ての動詞に適用されるわけではないようですが、この課においては同じタイプの活用をする動詞ばかりが入っているのもすごく親切だと思います。
繰り返しが多い文章は単調になりがちですが、この本ではうまく畳みかけギャグに仕立ててあったりして面白い。たとえば第10課は郵便局でたらい回しにされる話。まるで落語みたい。同じに見えるセリフでも、よく読むと回を重ねるごとに少しずつ複雑になっていて、主人公のロシア語の進歩のあとが伺えます。
同じ単語の使いまわしがこの本の魅力と前項で書きましたが、それだとどうしても習得語彙は少なくなります。わたしなんかはそれでも構わないのですが、入門書も安くはないですから、購入したテキストの掲載語彙数が少ないと、ソンをした気分になる人もいるでしょう。
そんな人のために(?)、練習問題のページに関連語彙が7つずつ掲載されています。
こういう多重構造はいいなあと思います。サイドストーリーの存在もそうですが、この本は「一度読んでオシマイ」じゃなく、何度も段階を変えて取り組める。
最初はスキットだけ。次はサイドストーリー。次は練習問題。そのあとは単語力アップや表現力アップも読んでみるとか。
一度で全部吸収しようと意気込み、第一課から水を漏らさぬように繰ってたら最後まで行き着くのはターイヘン! そんな日は永遠にこないかもしれない。
それよりは、最初の一日で最後までとりあえずスキットだけでも読みきってしまい、次回は少しだけ高い目標を設定して読む。「一冊読みきる」という目標は初回で達成してしまっているので、あとはいつやめても挫折にはあたらない^^。そんな読み方もアリと思う。
この本はそういうニーズにも応えてくれます。
あとやっぱり、簡単に使える表現が多いのは魅力です。ロシア語って動詞だけでなく、名詞や形容詞までが猫の目のように変化する。そういう品詞を使おうとすると、面倒臭いことになります。
ところが変化しない品詞がロシア語にもあるんですねえ。それは副詞です。副詞さえ使っておけば、変化ナシ! 副詞なら一言で色々言えちゃう! こいつは便利だ!
代表的な例としてхорошо(ハラショー)がありますが、この本にはстранно(おかしいなあ)とか、интересно(面白い!)とか、можно(大丈夫ですよ)とか、他にもいろいろあって、それだけポロッと言っても通じる。しかもどれもみんなноで終わってて、覚えやすいことこの上ない!
やはり本って「使える!」と思うから読むんだよね。すぐ覚えて使える言葉がたくさんあったら、読むなと言われたって読むよ。要は苦労と期待値のバランス。この本は期待値が高く、苦労の少ない表現が多い。そこがいい。
いままで黒田龍之助はわたしにとってただの黒田龍之助でしたが(古い人間なので、会ったこともない著名人を「さん」づけで呼ぶ最近の風潮にはどうも違和感を感じる)、これからは黒田龍之助先生と呼ぼう。
黒田先生、これからもロシア語でお世話になります。
著者は黒田龍之助。言語学者としての著書はだいたい読んでいると思いますが、ロシア語のテキストを読んだのは、これが初めてです。
最初はそんなに気合いを入れて読むつもりはなく、一度スキットだけサラッと読んでおしまいにするつもりでした。
でも読み終えたあと、うっかり耳寄りな情報を拾ってしまった。なんでも練習問題にサイドストーリーがあるらしい。
それで図書館に返そうと思っていた本を、思わずまた手にとってしまったというわけです。いつもは練習問題なんて軽く無視するのがわたしの流儀なんだけどね。
練習問題に潜むサイドストーリーの謎
ニューエクスプレスシリーズは言語によらず、スキットの主人公、登場人物が一貫しており、全編を通して一つの物語になっています。その上ロシア語はサイドストーリーがあると聞いては、こりゃ読まんわけにはいかないでしょう。
練習問題のページを繰ってみると、ありました、ありました。たしかにダイアログが。
ただし、各課のスキットの登場人物とは別。最初は全く関係がないように思えたのですが、あれ、あれれ??と思っているうちに話が繋がり、なんかちょっとハラハラもしつつ、最後は収まるべきところに収まった感じでした。
なんかものすごく、ロシア語が読めてよかったーー!!という気分になった。
スキットを読んだときは分からないところがけっこうあって、和訳や単語をちらちら見ながら理解していました。だけど練習問題のダイアログは和訳が手近にない(巻末に纏まっている)ので、ロシア語だけで理解するしかないわけです。それでも特に支障なく、ハイ次、ハイ次、と、興味の赴くまま、テンポよく読んでいかれたのが嬉しかったです。
なんていうの? 「自然に読書してる」感?
なんだ、ロシア語読めるんじゃん、みたいな。
ついでにダイアログ以外の練習問題も適当にこなしつつ読みましたが、それでも全部で1時間半もかかったかなあ? すでに習った課のおさらいなので、思いのほかラクでした。
お手本みたいな入門書
サイドストーリーのほかにも、この本には学習者をできるだけ挫折させない、飽きさせない工夫が凝らされており、その後もとっくり返し、ひっくり返し、何度も読み返したり、CDを聞いたりしています。
第一課で読者を釣らない
挫折させない工夫、たとえばその一つは、第一課が短すぎないこと。
通常の入門書は、第一課、第二課あたりが平易すぎます。ほんの数行読んで、もうおしまい。
そのクセ、第五課あたりから突然難しくなりはじめ、第十課を過ぎると、もう学習者への気遣いはどこへやら。複文やら重文やらがバンバン出てきて一文あたりが長くなり、スキット全体も文字量がわっと増える。
いくら入門書でも、「ここまでは教えたい」という目安がありますから、最初が簡単すぎると、あとにしわ寄せが来る。まるでどっかの国の赤字国債みたい。いいかげん、ツケをあとに回すのやめようよ。
書店で第一課、第二課あたりを立ち読みし、「これなら自分にも読めそう」と思って買っていく学習者を当て込んでいるのかもしれませんが、はっきりいってズルいと思う。
学習者は最初から最後まで、できるだけ同じペースで学習したいんです。毎日1課やると決めたら、一時間なら一時間、毎日同じペースで学習したい。
第一課は30分で終わったのに、最後のほうは1課につき二時間かかる、なんてのはゴメン。
この「ニューエクスプレス ロシア語」は第一課から割とガッツリ読ませてくれます。
たとえば第一課の語数は36ワード、第二課は37ワードです。これは入門書の第一課の語数としてはかなり多い。
でもさー、それくらい読まなくて、どうして読めるようになるの? ある程度の量を読まなかったら読めるようにはならないよ。
ではこの本の最後の第二十課のワード数はどれくらいでしょうか。
正解は64ワード。36ワードの第一課に比べ、確かに増えてはいますが、倍にはなっていません。
ちなみに前シリーズの「CDエクスプレス ロシア語」の語数はというと、第一課が18ワード、第二課は21ワード。
そして最後の第二十課は93ワード。18ワードから93ワードですから、なんと5倍以上に増えています。
断っておきますが、「CDエクスプレス ロシア語」も相当よくできた入門書。決して悪い見本ではありません。でも難化カーブの緩さに関しては、後進の「ニューエクスプレス ロシア語」に道を譲るようです。
語数が多いと難しいかというと、必ずしもそうとは限りません。語数が多いほうがむしろ分かりやすい部分もあります。
たとえば第一課に
Она русская?(彼女はロシア人ですか?)という部分があります。これを読めば、疑問形になっても語順が変わらないことが説明されなくてもおのずと分かる。
Да, она русская.(はい、彼女はロシア人です)
次に
Это её мать. (これは彼女のお母さんです)
Это её отец?(これは彼女のお父さんですか?)という箇所を見れば、 матьがお母さん、отецがお父さんだと分かり、お母さんがお父さんに変わってもЭто её(これは彼女の~です)という部分は変わらないことが分かるじゃないですか。
たくさん文例を見せてもらったほうが、そういうことが自分で発見できる。だから語数は多いほうが、ある意味むしろラク。まだ内容が単純なうちに、こういう発見をたくさんさせてほしいです。
自分で法則性を推測できる
あと「ニューエクスプレス ロシア語」はとにかく語彙の使いまわしが多いところが良いと思う。
たとえば第五課には、читать(読む)という動詞が4回、журнал(雑誌)という名詞が4回出てきます。同課には他にも同じような活用をする動詞が2つ使われていて、よく見ると、
вы делаете(あなたはしている)と、きれいに語尾が揃っている。
вы отдыхаете(あなたは休んでいる)
вы читаете(あなたは読んでいる)
同様に、主語が「わたし」の場合も
я отдыхаю(している)が出てくるので、主語が「わたし」の場合はаюをつけるんだな、と分かり、きっと「わたしはしている」は「я делаю」、じゃないかな、という推測までできちゃう。
я читаю(読んでいる)
я знаю(知っている)
繰り返しが多いことで、文法説明を読まなくても、ある程度自分で法則性を発見できてしまうのがとても良いです。
どうやらこの課で出てきた動詞活用が全ての動詞に適用されるわけではないようですが、この課においては同じタイプの活用をする動詞ばかりが入っているのもすごく親切だと思います。
繰り返しが多い文章は単調になりがちですが、この本ではうまく畳みかけギャグに仕立ててあったりして面白い。たとえば第10課は郵便局でたらい回しにされる話。まるで落語みたい。同じに見えるセリフでも、よく読むと回を重ねるごとに少しずつ複雑になっていて、主人公のロシア語の進歩のあとが伺えます。
何度も読める
同じ単語の使いまわしがこの本の魅力と前項で書きましたが、それだとどうしても習得語彙は少なくなります。わたしなんかはそれでも構わないのですが、入門書も安くはないですから、購入したテキストの掲載語彙数が少ないと、ソンをした気分になる人もいるでしょう。
そんな人のために(?)、練習問題のページに関連語彙が7つずつ掲載されています。
こういう多重構造はいいなあと思います。サイドストーリーの存在もそうですが、この本は「一度読んでオシマイ」じゃなく、何度も段階を変えて取り組める。
最初はスキットだけ。次はサイドストーリー。次は練習問題。そのあとは単語力アップや表現力アップも読んでみるとか。
一度で全部吸収しようと意気込み、第一課から水を漏らさぬように繰ってたら最後まで行き着くのはターイヘン! そんな日は永遠にこないかもしれない。
それよりは、最初の一日で最後までとりあえずスキットだけでも読みきってしまい、次回は少しだけ高い目標を設定して読む。「一冊読みきる」という目標は初回で達成してしまっているので、あとはいつやめても挫折にはあたらない^^。そんな読み方もアリと思う。
この本はそういうニーズにも応えてくれます。
すぐ使える表現が多い
あとやっぱり、簡単に使える表現が多いのは魅力です。ロシア語って動詞だけでなく、名詞や形容詞までが猫の目のように変化する。そういう品詞を使おうとすると、面倒臭いことになります。
ところが変化しない品詞がロシア語にもあるんですねえ。それは副詞です。副詞さえ使っておけば、変化ナシ! 副詞なら一言で色々言えちゃう! こいつは便利だ!
代表的な例としてхорошо(ハラショー)がありますが、この本にはстранно(おかしいなあ)とか、интересно(面白い!)とか、можно(大丈夫ですよ)とか、他にもいろいろあって、それだけポロッと言っても通じる。しかもどれもみんなноで終わってて、覚えやすいことこの上ない!
やはり本って「使える!」と思うから読むんだよね。すぐ覚えて使える言葉がたくさんあったら、読むなと言われたって読むよ。要は苦労と期待値のバランス。この本は期待値が高く、苦労の少ない表現が多い。そこがいい。
いままで黒田龍之助はわたしにとってただの黒田龍之助でしたが(古い人間なので、会ったこともない著名人を「さん」づけで呼ぶ最近の風潮にはどうも違和感を感じる)、これからは黒田龍之助先生と呼ぼう。
黒田先生、これからもロシア語でお世話になります。